ゆいのふね

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天然鮎に必要な

もうひとつの物語

「鮎の味は、川の味」
だけれど…

深い山々から流れでる清らかな「水」と、その水に

よって育まれた鮎のエサとなる上質な「コケ」

 

これらが揃えば確かに美味しい鮎が育ちます。

その「川の味」が「鮎の味」ともいわれる由縁です。

 

ただ、それだけでは足りないこと。

 

天然鮎を扱う漁業者にとって、もうひとつだけ天然鮎に必要で存在して欲しいものがあります。それは…

わずか1年の寿命である彼らたちの物語です。

雪解け水がぬるむ頃、わずかな増水が呼び水となり稚鮎たちは一斉に川を遡ります。河口から上流へ50km、100kmと旅をする者はやがて吻がするどく尖り勇敢な顔立ちへと変貌します。魚体の流線型もシャープになり、その一方で鰭(ヒレ)は大きくなっていきます。

 

盛夏

水面下の鮎は血気盛んです。川底で自分の縄張りを主張し他の鮎を寄せつけません。他の鮎がテリトリーに侵入しようものなら、背びれを大きく突き上げ、相手の下方から頭ごと体当たりです。

 

初秋

夏の終わりが近づき河原に彼岸花が咲き始めると、彼らはそれまでの縄張りを解放し産卵の

準備へと移ります。群れを成し集団で川を下り砂礫(されき)底の産卵場を求めます。夏の

それとは対照的に、集団で力をあわせて体をボロボロにしながら彼らたちは自身最後の営みを開始します…

 

晩秋〜初冬

孵化した仔魚は遊泳能力が限りなく小さいので、川の流れにのってそのまま海へと入ります。仔魚が卵嚢を抱えている間にエサのあるところへ辿り着けなければ餓死してしまいますし、

一定期間内に塩分濃度のある区域に辿り着けなければ、その後、仔魚は塩分耐性を失い海での生活を続けられなくなります…

川魚の代表格で有名な鮎ですが、その生活史のおよそ半分は海で

暮らします。

 

わずか1年の寿命…

この「生き様」こそが天然鮎の最大の魅力だと私は思います。

そんな短い生活史すら全うできない鮎たちが今、日本中に溢れています。

天然遡上や自然産卵があり、それでいて上質な味を誇れる天然鮎が獲れる川は今、日本にどのくらい残っているのでしょうか。